研究期間:1994年4月〜1995年3月 |
電気生理学的, 行動生理学的手法により, 性ホルモンや副腎皮質ホルモンといったステロイドホルモンが中枢神経系の発生, 機能に及ぼす作用について研究を進めている. 少なからぬ難治の精神神経疾患の発症が思春期や更年期といった性ホルモン分泌の激変期と一致したり, 性差を伴うことが知られている. また, 男性ホルモンの過剰により粗暴な行為が起こる例に見られるように, ヒトの行動もこれらのホルモンに影響される. 細胞レベルではステロイドホルモンが神経細胞の発生や生存, 神経突起の成長などを制御する. われわれはこれまでに発育途上における性ホルモンの作用により, 内側視索前野や視床下部に発する神経回路のエストロゲン感受性に性差が生じることを示した. ヒトでもラットでも, 遺伝情報による脳の設計図は, 生殖器官と同様女性型が基本であり, 個体発育の途上で男性ホルモンの作用により, 男性型へ改造される. ラットでは新生仔期に雄を去勢したり, 雌に男性ホルモンを投与すると脳の性転換が容易に起こる. また, 妊娠中に強いストレスに暴露された母親から得られる雄新生仔の脳は雌型にとどまる. これらの現象を手がかりに, 当講座では, (1) 性ホルモン感受性中枢ニューロンの電気生理学, (2) 行動学的手法による生殖や学習行動の検討, (3) ステロイドホルモンの分泌制御に関与する脳内神経細胞の個体発生, 系統発生の形態学解析, (4) 性ホルモン受容体タンパクの発現に関わる分子機序の解明といった4つの方面からステロイドホルモンの中枢作用機序の解明に取り組んでいる. 学内外のご理解により本年度は私立学校施設整備費補助金が交付され, 研究設備が格段の充実を遂げるとともに, 大学院生, 国内留学生や客員研究員といった若いメンバーの参加を得て, 各グループとも本格的に研究が立ち上がる年となった. 研究体制の整備により, 今後一層の成果を挙げることを期している.